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大阪高等裁判所 平成7年(ネ)185号 判決 1997年4月17日

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人孝祐」という)

清水孝祐

控訴人(以下「控訴人和子」という)

清水和子

右両名訴訟代理人弁護士

竹光明登

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人会社」という)

清水産業株式会社

右代表者代表取締役

清水利祐

被控訴人(以下「被控訴人三郎」という)

清水三郎

右両名訴訟代理人弁護士

岡島成俊

主文

一  本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決中控訴人清水孝祐に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人孝祐は、被控訴人会社に対し、三四万八五七〇円及びこれに対する平成元年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人らと控訴人孝祐との間で、被控訴人三郎が原判決別紙株式目録一記載の被控訴人会社の株式一一万三〇〇〇株の内二万七〇〇〇株を有する株主であることを確認する。

3  被控訴人らの控訴人孝祐に対するその余の請求をいずれも棄却する。

4  右1については仮に執行することができる。

二  本件控訴に基づき、原判決中控訴人和子に関する部分を次のとおり変更する。

1  被控訴人らと控訴人和子との間で、被控訴人三郎が原判決別紙株式目録二記載の被控訴人会社の株式二万八〇〇〇株の内一万八〇〇〇株を有する株主であることを確認する。

2  被控訴人らの控訴人和子に対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  控訴人らのその余の控訴及び被控訴人会社のその余の附帯控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、第一、第二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人らの各負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人らの敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  控訴人孝祐に対する本件附帯控訴を棄却する。

4  訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  原判決中被控訴人会社敗訴部分を取り消す。

3  控訴人孝祐は、被控訴人会社に対し、金七〇七万八〇一五円及びこれに対する平成元年一一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は第一、第二審とも控訴人らの負担とする。

第二  主張

以下のとおり付加等するほかは原判決事実欄第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決三丁表六行目「当庁」を「大阪地方裁判所」と改め、同裏三行目「違反」の次に「し又は不法行為に該当」を加え、同四丁表七行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「(三) 控訴人孝祐の会社整理申立の目的は、後述の控訴人ら名義の株式が存在するかのごとく株主名簿を改ざんしたうえ、被控訴人会社本社建物を売却して被控訴人会社を潰し、右架空の株式を前提として残余財産の分配に与かるという私利私欲のためのものであり、明らかに代表取締役としての権限を濫用したものである。」

二  同五丁表一〇行目「ないし」から同末行「ついて、」までを「のワードプロッセッサー及び⑬の機械の一部を無断で持ち帰っており、②を私的に費消し、③、④は不必要かつ有害であるのにこれを支出し、⑤、⑩、⑪を横領し、⑥、⑫、⑭ないし⑯は」と改め、同六丁裏九行目「六四四条」の次に「又は民法七〇九条、七一〇条」を、同一〇行目「七〇〇万円、」の次に「別紙明細書①ないし⑤、⑦ないし⑪、⑬については」を、同七丁表一行目「賠償」の次に「、同⑥、⑫、⑭ないし⑯については民法七〇三条、七〇四条に基づく不当利得返還請求」をそれぞれ加える。

三  同七丁裏四行目「状態であり、」の次に「借入金の支払いのために金融機関に差し入れていた約束手形の支払期日が次々に到来するという状況の下、控訴人孝祐と被控訴人三郎とは被控訴人会社を存続させるかどうかという根本的方針について対立し、被控訴人会社の廃業を主張していた被控訴人三郎は、控訴人孝祐に対し、被控訴人会社所有の借地権付本社建物を同社の負債総額相当額で敷地所有者であり被控訴人三郎の妻(控訴人孝祐にとっては継母)である訴外清水壽子(以下「壽子」という。)に売却するように迫ったり、これに応じなければ」を加え、同五行目「郎が」を「郎は」と、同行「した」を「するなどと申し向けたりしており、対立が深刻でこのままでは実際に被控訴人三郎の保証の更新拒絶がなされ、その」と改め、同末行の次に行を改めて次のとおり加える。

「 同3(三)の事実を否認する。被控訴人会社の廃業を考えていたのは被控訴人三郎や壽子の方であり、控訴人孝祐は被控訴人会社の存続を図る目的で、控訴人ら代理人に相談の上、会社整理の申立をしたものである。保全処分も被控訴人会社の財産を被控訴人三郎が勝手に処分しないようにするためにしたものであり、何ら違法なものとはいえない。なお、被控訴人らは、会社整理の申立後、被控訴人三郎の個人資産を売却して負債の返済に充てる旨の再建案を提出したため、控訴人孝祐はその目的を達したと判断し会社整理の申立を取り下げている。しかるに、被控訴人らが最終的に採った負債解消方法は、控訴人孝祐が会社整理の申立において示したところの被控訴人会社所有の倉庫(借地権付)の売却であり、このことは右申立が正しかったことの証左である。」

四  同八丁裏九行目「⑪」を「⑬」と、同九丁表一〇行目「第三者」を「株式会社ギフトバン」と、同一〇丁表三行目の「(二)」を「(三)」とそれぞれ改め、同二行目の次に行を改めて以下のとおり加える。

「(二) (控訴人らの被控訴人三郎からの株式の取得)

仮に控訴人ら名義の株式中に被控訴人三郎が権利を有する名義株が存在しているとしても、控訴人らは、被控訴人三郎から、右株式を有償または無償で取得した(控訴人らの平成五年七月一四日付準備書面第三の記載は右のとおりと解される。)。」

五  同一一丁表二行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「五 再抗弁(抗弁2の(一)、(二)に対し)

被控訴人会社は、定款により株式の譲渡については取締役会の承認を要する旨定めており、控訴人らの主張する株式の移転については右取締役会の承認はなされていない。

六  再々抗弁

被控訴人会社は、被控訴人会社の株主名簿及び株主台帳に控訴人らや従業員の氏名を記載し、控訴人らや従業員を株主として取り扱ってきたものであり、被控訴人三郎もこれに同意しているのであるから、控訴人らは有効に株式を取得したものというべきである。」

第三  証拠<省略>

理由

以下のとおり付加等するほかは、原判決理由欄に記載のとおりであるからこれを引用する。

一  原判決一一丁表末行冒頭の「立」の次に「及び保全処分の申立」を加え、同行「必要性」から同裏一行目「あったか」までを「取締役としての忠実義務、善管注意義務に反し或いは不法行為に該当するか否か」と改め、同三行目「第一号証の」の次に「一ないし」を加え、同四行目「四」を「五」と改め、同行「第一〇〇号証、」の次に「乙第一号証の一ないし四、」を加え、同五行目「弁論」から同七行目「号証、」を削除し、同八行目「よれば、」の次に「被控訴人会社は、文久三年に訴外清水伊祐が創業した家具業を元祖とし、昭和一八年一一月被控訴人三郎が設立した家具及び木工品の製作販売等を目的とする会社であること、本件整理申立の当時、控訴人孝祐は被控訴人会社の代表取締役、被控訴人三郎、木澤及び控訴人孝祐の弟である清水利祐(現被控訴人会社代表者、以下「利祐」という。)は被控訴人会社の取締役であったこと、」を加え、同一二丁表九行目「二億三〇〇〇万円前後の価格で」を削除し、同裏一行目冒頭の「る」の次に「が、従業員は雇わず、同業者の商品の委託販売をしている程度である」を加える。

二  同一三丁表四行目「こと、」の次に「にもかかわらずその後の業界の厳しい情勢とこれに対する有効な再建策が講じられなかったことから」を、同裏一行目「極度額」の次に「(合計一億六〇〇〇万円)」をそれぞれ加え、同二行目「清水」及び同三行目冒頭から同四行目「う。)」までを削除し、同九行目「貿易」を「商品」と改め、同一四丁表七行目「こと、」の次に「かように」を加え、同行「右保証契約」から同八行目「関して」までを削除し、同裏九行目「なければ」の次に「支払利息の圧迫等により」を加え、同一五丁表六行目「妥協すれば」を「妥協することができれば」と改め、同八行目「あるが、」の次に以下のとおり加える。

「前記認定の被控訴人会社の経営状態の推移、被控訴人三郎の控訴人孝祐の再建案に対する対応や申入内容、本件整理申立の後の被控訴人会社の事業内容及び前掲乙第二号証、控訴人孝祐の原審本人尋問の結果を総合すれば、被控訴人三郎、壽子及び利祐らは、被控訴人会社の存続、再建に対する熱意を失っていたものと認められる(これに反する被控訴人三郎の原審本人尋問の結果等の各証拠は信用できない。ちなみに右被控訴人三郎の供述によれば、同人は昭和六〇年の人員整理の際にも廃業をも考慮していたことが伺える。)から、右のごとき妥協はそのままでは当面不可能であったというほかない。したがって、」

三  同一五丁裏四行目冒頭から同一八丁表末行までを次のとおり改める。

「(四) また、会社整理開始の要件としては、そのほかに整理の見込みがあること、不当な目的を持つ申立でないことを要すると解されるから、本件整理申立が違法であるか否かを判断するためには、右整理開始の要件に対応して、整理の見込みがないわけではなかったか否か、不当な目的を持つ申立でなかったか否かについて更に検討することを要する。

まず、整理の見込みについては、前記認定のとおり、本件整理申立の当時の主たる債権者は市中銀行であり、そこから元本の返済を督促されるような状況にまでは至っていなかったし、当時担保物件である土地建物の価格がいわゆるバブル経済により高騰しつつあったことは当裁判所に顕著な事実であるから、右債権者の再建への協力と当面の資金援助及び負債の返済は充分に期待できるものであったといえるうえ、当時の被控訴人会社の取引は現金取引のみであり(原審証人木澤の証言)、手形の支払いに追われるという状況にもなく、従業員数も僅か二名であった(前掲甲第一号証の一、乙第一号証の一)のであるから、経営陣の意欲さえあり、共同歩調がとれるならば整理の見込みは充分に存したと考えられる。しかるに、本件では会社の存続か廃業かという根本的方針について経営陣内部で深刻な対立があったから、旧経営陣が交代することを予定しない会社整理という手段では、結局負債の整理という当面の目的を達成できなかったのではないかとの疑問がある。しかしながら、被控訴人三郎等の控訴人孝祐と対立していた経営陣らも、被控訴人会社の負債の整理を要することは控訴人孝祐と共通の認識であったはずであり、現に、前記のとおり、控訴人会社は、本件申立後、主要な営業施設である本社建物を残し、木造建物二棟のみを敷地所有者に売却してその代金で累積債務を完済しているが、証拠(前掲甲第一号証の一・三、第二ないし第四号証、乙第一号証の一ないし四、成立に争いのない乙第一号証の六、第四三号証の一・二、原審における控訴人孝祐本人尋問の結果)によれば、これは控訴人孝祐が本件申立の際に予定した債務の整理案と同じであること、なお、被控訴人会社が昭和六二年五月一一日付で被控訴人三郎の個人資産を売却して負債の返済に充てる旨の再建案を裁判所に上申したことから、控訴人孝祐はその目的を達したとして同年九月九日に本件整理申立を取り下げていることが認められる。右の点からすると、会社の存続か廃業かという方針についての対立はあったものの、会社整理の申立を機に、当面の最大の課題である累積債務を整理するという点では共同歩調をとることは客観的には可能であり、その見込みもあったということができるから、整理の見込みがないわけではなかったものというべきである。なお、被控訴人らは、本件整理申立が取締役会の決議に基づいていないことをもその根拠として主張しているが、会社整理の申立は個々の取締役においてこれをなしうるものであり(商法三八一条一項)、取締役会の決議は要しないものと解される。

(五) 次に、控訴人孝祐の本件整理申立の目的について検討すると、被控訴人らは、本件整理申立は、被控訴人会社の株主名簿を改竄したうえ、本社建物を売却することによって残余財産の分配に与るという控訴人孝祐の私利私欲の目的に出た行動であると主張するが、前記認定のとおり、控訴人孝祐が考えていたのは前記二棟の木造建物の売却であるにすぎないし、株主名簿の改竄という点は後に詳述する株式の帰属を巡る諸般の事情からして認めがたいから、右主張は失当である。

また、控訴人孝祐が本件整理申立に踏み切った直接的な契機は、被控訴人三郎から被控訴人会社の代表取締役を辞任するように要求されたことにあるものと考えられるけれども、本件整理申立をすることにより控訴人孝祐の代表取締役としての地位を確保することができるという関係にあるとは考えがたく、現に控訴人孝祐は被控訴人会社の登記上昭和六二年四月一一日付で代表取締役を解任されたことになっていること(成立に争いのない甲第六号証)、控訴人孝祐は同年八月二七日付で被控訴人会社に対し取締役の辞任届を提出していること(成立に争いのない甲第七号証)からすれば、控訴人孝祐の本件整理申立は、自己の地位の確保を図る目的の下になされたものともいいがたい。もっとも、被控訴人らが主張するように被控訴人三郎が被控訴人会社の発行済株式の全部を有していたのであれば、控訴人孝祐が、被控訴人三郎の被控訴人会社の廃業の意向や控訴人孝祐の代表取締役辞任の要求にもかかわらず、本件整理申立をしたことはその地位を守るための権限濫用行為であるという余地はある。しかしながら、後に詳述するとおり、当時控訴人らは被控訴人会社の株式総数三二万株の内七万五〇〇〇株を有していたと認められるうえ、そこでの認定事実に照らせば、控訴人孝祐が控訴人らはその名義の株式合計一四万一〇〇〇株を有している(少なくともそれは被控訴人三郎あるいはそれに同調する側の者が有するものではない)と考えたとしても必ずしも不自然であるとは言えない状況が存在したものというべきであり、したがって、控訴人孝祐が被控訴人会社を廃業することに反対し行動を起こすことには相応の理由があったというべきである。そして、かような状況の下では、株式の帰属を中心として被控訴人三郎側と控訴人孝祐側との間でそうたやすく問題が解決されることは望みえず、紛争は極めて長期化し深刻化することは必定であって、その間被控訴人会社の経営が改善されることはありえないから、ますます被控訴人会社の累積債務は増加し、もはや再建も清算による残余財産の分配も見込めない事態に陥る危険性があったことは否定できない。これを回避するためには、とりあえず被控訴人会社の経営を圧迫している負債の整理の手段として会社整理を選択することは有効な方策であり、会社債権者や株主の利益を保護することに資するともいえるから、それが窮余の策であった側面や被控訴人会社の社会的信用を損なう側面はあるにしても、自己の利益を図る目的のみに基づく権限濫用行為であったとはいえないものというべきである。

(六)  以上によれば、控訴人孝祐が本件整理申立をしたのもあながち無理からぬところであったというべきであって、それが被控訴人会社に対する忠実義務、善管注意義務に違反し、あるいは不法行為を構成する違法な行為であると評価することはできないところである。したがって、被控訴人会社の忠実義務、善管注意義務違反又は不法行為に基づく信用毀損についての損害賠償請求は失当である。」

四  原判決一九丁表九行目「違法なものである」の次に「とはいえない」を加え、同一〇行目から一一行目「がなければ支出されなかった」を「のために支出された」と、同行「右違法行為」から同裏二行目「ものである。」までを「商法二五四条三項、民法六四九条、六五〇条の委任事務処理費用に該当するものであって、被控訴人会社に返還することを要しないものというべきである。」と、同四行目「も役立つ」を「費消され」と、同六行目「全額が」を「全額を控訴人孝祐が」と、同「の損害となる。もっとも」を「に返還する義務はない。したがって」と、同七行目「孝祐は」を「孝祐の」と、同九行目「を提出」から同二〇丁裏八行目末尾までを「について判断するまでもなく、別紙明細表⑦ないし⑨の損害賠償請求は理由がない。」と、それぞれ改める。

五  同二〇丁裏九行目「(二)」の次に「前記認定の事実及び」を、同二一丁表四行目「解任され」の次に「(代わって利祐及び被控訴人三郎が被控訴人会社の代表取締役に就任した。)」をそれぞれ加え、同二二丁表七行目「右供述のみでは」を「控訴人孝祐の反対趣旨の原審における供述に照らし、」と、同二四丁表三行目「業務」を「取引先」と、同二五丁裏七行目「うえ」から同二六丁表一行目末尾までを「から、⑦ないし⑨と同様、控訴人孝祐にはこれを被控訴人会社に返還すべき義務はない。」と、同二七丁表四行目「。右認定に反する証拠はない。」を「ものの、控訴人孝祐は右については不当利得として被控訴人会社に返還すべきである。」と、同二八丁表二行目「「会社」から同三行目「賠償」までを「明細表⑫の合計三四万八五七〇円を不当利得として返還」と、それぞれ改める。

六  同二八丁表七行目の次に行を改めて以下のとおり加える。

「 ここで、以下の検討の便宜のため、本件株主権確認の対象について整理しておく。

成立に争いのない乙第一一号証の二、第五二ないし第五四号証の各二、被控訴人会社名下の印影が被控訴人会社の印鑑によるものであることについては当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推定すべき乙第五七号証、原審証人木澤の証言により真正に成立したものと認められる甲第三一号証の二ないし一二、第九八号証の二、三、一六、二八、四一、乙第一号証の五、原審における控訴人孝祐本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第三八、第三九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第五五、第五六号証により認められる事実及び控訴人らの主張内容は次のとおりである。

本件確認請求の対象である控訴人ら名義の株式については、昭和六一年一一月一八日付の株主名簿(乙第一号証の五)に記載されている。

(1)  控訴人孝祐名義の株式は、株主名簿上、昭和二三年八月二五日付(甲第九八号証の三)の一〇〇〇株に始まり、以後漸次増加して昭和五三年八月三一日付から昭和五八年四月一日付まで(甲第三一号証の二ないし九)は六万五〇〇〇株とされ、昭和五九年七月一日付(甲第三一号証の一〇)では六万六〇〇〇株、昭和六〇年八月三一日付及び昭和六一年八月三一日付(乙第三八、第三九号証)では八万六〇〇〇株、同年一一月一八日付(前掲)では一一万三〇〇〇株に増加している。

控訴人孝祐は、昭和五三年八月三一日付で六万五〇〇〇株となった内訳は、昭和四〇年九月三〇日の増資において二万株分の一〇〇万円を払込み、その後訴外藤本秀二から、同人名義及び同人の息子である訴外藤本裕二名義の株式合計一万六〇〇〇株又は一万八〇〇〇株を買取ったほか、その余も他の名義人又は被控訴人三郎から有償又は無償で取得したと主張している。また、昭和六〇年八月三一日付までに二万一〇〇〇株増加した分は、同年の人員整理の際に従業員持株制度により株式を取得していた従業員から控訴人孝祐が買い取ったものであり、同年一一月一八日付で更に二万七〇〇〇株増加した分は訴外森田義久、同滝本修弘及び秋田登亀雄から買い取ったものであると主張している。

(2)  控訴人和子名義の株式は、株主名簿上、昭和五五年四月一日付から昭和六一年八月三一日付(甲第三一号証の四ないし一〇、乙第三八、第三九号証)までは一万株であり、同年一一月一八日付で二万八〇〇〇株に増加している。

控訴人和子は、当初の一万株は有償で取得したものであり、昭和六一年一一月一八日付で増加した一万八〇〇〇株は訴外松下敏夫及び同宮井清忠から買い取ったものであると主張している。

(3)  なお、前記事実欄第二、三、2、(二)に記載のとおり、控訴人らは、右各主張が認められないとしても、それぞれの名義の株式を被控訴人三郎から取得した旨をも主張しているものと解される。」

七  同二九丁表六行目「商号をを」を「商号を」と、同裏七行目冒頭から同八行目末尾までを「控訴人ら名義のものはすべて被控訴人三郎名義に」と、同三〇丁表六行目「原告三郎」から同七行目「代表者」までを「利祐、壽子」とそれぞれ改め、同一〇行目「決定し、」の次に「控訴人孝祐、利祐が未成年の時にも同人らの名義を使用したこともあった。」を加え、同末行「原告会社代表者」を「利祐」と改める。

八  同三一丁表一行目「基づき」の次に「各名義人毎に」を加え、同三行目「取り、」を「取って配付し、」と、同四行目「こととなって」を「などの処理をおこなって」とそれぞれ改め、同裏一行目「事実に、」の次に「後記のとおり被控訴人三郎以外の者が各増資の際に株金を払い込んだことを強く伺わせる事情も認めがたいこと、」を加え、同三行目末尾に以下のとおり加える。

「なお、控訴人らは、被控訴人会社には株主台帳が備えつけられており、これは株式の移転の経緯が逐次正確に記載されているところ、これを被控訴人会社が証拠として提出しない以上、被控訴人三郎の出資の事実は認めがたいと主張しており、後記のとおり右株主台帳が過去に存在し、その記載内容は株主名簿と正確に照合されたものであることが認められるが、被控訴人らは、控訴人孝祐が昭和六二年三月四日にこれを被控訴人会社から無断で持ち出したと主張し、また、後記のとおりその一部の写しは控訴人らから提出されているうえ、株主台帳の記載内容が真実の出資や株式の移転をも反映しているとまでは認めがたいから、株主台帳が被控訴人らから提出されていないことは、前記被控訴人三郎の株式の原始取得の認定を左右しない。」

九  同三一丁裏七行目「名簿」を「台帳」と改め、同九行目「しかしながら、」の次に「右当時、控訴人孝祐は弱冠二七才であり、当時としてはかなりの大金である一〇〇万円を調達することができたかどうかはすこぶる疑問であるし、」を加え、同三二丁表二行目「たうえ」を削除し、同三三丁裏二行目「四回目の」を削除し、同三行目、するが」から同六行目冒頭の「と」までを「し、そ」と改め、同一〇行目「表(」の次に、株主名簿、」を同末行「ところ、」の次に「昭和三七年一〇月二〇日の増資の際の」を、同行「一覧表」の次に「(甲第九八号証の一六)」をそれぞれ加え、同三四丁表一行目「ほか一名」を「(三〇〇〇株)と、昭和三八年一二月四日の増資の際の同表(甲第九八号証の二八)に記載されている同人(四〇〇〇株)及び山本徳蔵(一二〇〇株)」と、同二行目「いない」を「おらず、そのうち岡田ハツ名義の分は、別途作成されていた新株引受人名簿(株主名簿、乙第五五ないし五七号証)の秀二の出資株数と合致する」と、同六行目「しており」を「し、また、当審において秀二が昭和四〇年一〇月一五日に一万株分の五〇万円を払い込んだ旨記載された株主台帳の写し(乙第六四号証の一・二)を提出している。ところで、前掲乙第五五、五六号証及び」と、同七行目「及び」を「、」とそれぞれ改め、同行「よれば、」の次に「二、」を加え、同裏八行目「が大きいというべきである」を「もなくはない」と、同行から同九行目の「このような行為を行った」を「すでに認定したところからも明らかなとおり、被控訴人三郎は被控訴人会社の株主名簿を頻繁に書き替えており、株主台帳の記載内容も必ずしも真実を反映しているものともいえないから、右のような」とそれぞれ改め、同行「という」の次に「ことや前記株主台帳が存在するという」を、同一〇行目冒頭に「被控訴人三郎が増資の際の払込みをしたとの」をそれぞれ加える。同末行「また」を「なお」と、同三五丁表一行目「乙」を「前掲乙第六四号証の一・二及び」とそれぞれ改め、同三行目「うえ、」の次に「右乙第六四号証の一・二の記載内容には疑問のあることは既に述べたとおりであり、」を加え、同「証拠」を「乙第一二号証」と改め、同一〇行目末尾の次に「また、その他にも控訴人孝祐は株式名義人からその株式を買い受けた旨原審において供述しているが、裏付けもなく信用しがたい。」を加える。

一〇  同三五丁表末行冒頭から以下全部を次のとおりに改める。

「(五) そこで、進んで抗弁2(一)(従業員に対する贈与による被控訴人三郎の株式の喪失)について判断する。

(1)  前記(二)(3)で認定した事実及び証拠(前掲甲第三一号証の二ないし一〇、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一四〇号証、甲第一四〇号証及び原審証人木澤の証言により真正に成立したものと認められる甲第一〇八号証、第一一〇号証の一ないし一六、弁論の全趣旨及び原審における被控訴人三郎本人尋問の結果により原本の存在及びそれが真正に成立したものと認められる乙第六六号証、原審証人木澤の証言並びに原審における被控訴人三郎本人尋問の結果)によれば、被控訴人会社では、かねてより、その従業員のうち勤務年数が一〇年を超えた者については、その功労をたたえる趣旨で、株主名簿上の被控訴人三郎他の持株数を割いてこれを右従業員の持株として右名簿に記載するとともに、その際、同従業員から、所有株式を第三者に譲渡するなどの処分をしないことと、退社する際には一株五〇円の割合をもって被控訴人会社の指定する譲受人に株式を譲渡する旨の誓約書(乙第六六号証)を差し入れさせたこと、その後は昭和五七年まで決算期(毎年八月三一日)毎に右従業員に持株数に応じた利益配当を交付していたこと、右従業員が退社する場合には従前は被控訴人三郎宛の株券譲渡書を作成させ、同人には前記誓約書に記載のとおりの金員を退職金の一部として上乗せして被控訴人会社から支払っていたこと、昭和五八年四月一日時点で株主名簿に記載されて配当を受け、昭和六〇年の人員整理の完了までに被控訴人会社を退職した従業員は田仲将博、篠山誠、木下節範、中島昌三、山川成人、中尾忠和、杉山ひさ子、福山一夫、寺川正徳、増田和子、若松春雄、野田秀子、安島照、鈴木哲及び江川元康であり、その持株数の合計は二万一〇〇〇株であったことが認められる。右事実によれば、被控訴人三郎は、功労のあった従業員に報い、一層職務に精励させるべく、持株の一部を贈与したものと認めるのが相当である。

(2)  もっとも、被控訴人会社では株式の譲渡については取締役会の承認を要するものとされている(前掲甲第三八、第四〇、第四一、第四三号証)のに、その手続が取られたことを認めるべき証拠はなく、また、被控訴人会社では株主総会議事録は作成されているが、実際にはこれが開催されたことはなく(これに反する控訴人孝祐の原審における供述は信用できない。)、従って従業員は株主としての共益権を行使したことはないうえ、被控訴人三郎は、新興航空機時代の経験から、他に株主が存在すると会社経営につき意見が分かれた際に困るとの意見を常々表明していたこと既に認定したとおりである。しかしながら、もともと被控訴人会社は資本金も経営規模も大きくない典型的な同族会社であり、そのような会社では商法に定められた厳格な各種手続を履行していないのがむしろ常態であって、本件の場合、取締役会に対する承認手続や株主総会が開催されていなかったとしても、そのことから株式の贈与がなかったと見るのは形式的に過ぎるし、従業員に与えた持株数の発行済株式数(三二万株)に対する比率は小さく、原審証人木澤は、被控訴人三郎は第三者株が一割を超えると困ると述べていたとも証言していることからしても、従業員に右程度の株式を第三者への処分を禁止し退社時には被控訴人会社の指定する者に譲渡する旨の制限付で贈与することは、被控訴人三郎の前記見解と矛盾するものでもないから、右各事情は前記贈与の認定を左右しない。

(3)  また、右贈与について被控訴人会社の取締役会の承認がない点については、被控訴人会社自ら前記従業員らの名前を株主名簿に記載し、利益配当金を交付するなど、株主として取り扱ってきており、被控訴人三郎もこれに同意していたものというべきであるから、取締役会の承諾がないからといって右贈与を無効と解することはできないものというべきである。

(4)  以上によれば、抗弁2(一)は理由がある。(なお、被控訴人三郎は右従業員に贈与した二万一〇〇〇株を再取得した旨の主張もしないし、これを認めるべき証拠もない(乙第六六号証誓約書記載の金員が被控訴人会社から支払われていたことは、先に認定したとおりである。)。他方、控訴人孝祐は、これを買い取った旨主張し、原審においてその旨供述しているうえ、これに沿う書証(乙第一三号証ないし第二六号証の各一・二)も存在するが、右各従業員の退職は被控訴人会社の所有不動産の売却による資金の捻出を伴う人員整理の一環として行われたものである(前掲乙第二号証、控訴人孝祐の原審本人尋問の結果等)から、その際に控訴人孝祐が個人的に対価を支払ったというのは不自然であるほか、右各書証は必ずしも控訴人孝祐の支出を示すものではなく、関係各証拠(前掲甲第一〇八号証、第一一〇号証の一ないし一六、第一四〇号証、原審証人木澤の証言、被控訴人三郎本人の原審本人尋問の結果)に照らしても、右供述は信用できない。)

(六) 次に、抗弁2(二)(控訴人らの被控訴人三郎からの株式の取得)について検討する。

(1)  先に認定したとおり、株主名簿上、控訴人孝祐の持株数は、昭和五三年八月三一日付から昭和五八年四月一日付まで六万五〇〇〇株とされており、証拠(前掲乙第一一号証の二、三、成立に争いのない乙第一一号証の一、第三一、第四六号証、第四七号証の一、二、第四八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二七号証、原審証人木澤の証言、原審における控訴人孝祐本人尋問の結果)によれば、その間(最後の配当が行われた昭和五七年度まで)、右持株数に応じて利益配当を受けていたことが認められる。右六万五〇〇〇株の相当部分について控訴人孝祐は有償で取得した旨主張しており、これが認めがたいことは既に述べたところであるが、前記事実と、控訴人孝祐が被控訴人三郎の長男であり、被控訴人会社の取締役に古くから就任し、昭和五六年六月からは代表取締役に就任した名実ともに被控訴人三郎の後継者であったこと、被控訴人三郎は明治四一年生まれであり、控訴人孝祐が代表取締役に就任した前後は既に相当な高齢に達しており、そのころには被控訴人会社の経営からは実質的に引退していたといえることなどの事情を考慮すれば、それでもなお右六万五〇〇〇株は被控訴人三郎が有する名義株であると見るのは不自然であって、被控訴人三郎は昭和五三年八月三一日ころまでに、控訴人孝祐に対し、右六万五〇〇〇株を贈与したと認めるのが相当である。これについての取締役会の承認手続がなされていないこと、株主総会が開催されていないことは、前記従業員への贈与の場合と同様右認定を左右しないし、株数が多く被控訴人三郎の前記見解に抵触するかのごとき点も控訴人孝祐の右に見た特殊な立場からして右認定に影響を及ぼすものではない。また、これについての被控訴人会社の取締役会の承認がない点についても、従業員に対する贈与の場合と同様無効とはならないものというべきである。

次に、株主名簿上、昭和六〇年八月三一日付までに増加した二万一〇〇〇株は、被控訴人三郎が従業員に贈与したものであり、これを被控訴人三郎が再取得して控訴人孝祐に贈与或いは売却したことを認めるべき証拠はない。

昭和六一年一一月一八日付で更に二万七〇〇〇株増加した分は、証拠(前掲甲第三一号証の六ないし一〇、乙第三八、第三九号証)によれば、前記森田義久、滝本修弘及び秋田登亀雄名義であったものであるが、これらの者が株主名簿に記載されたのは控訴人孝祐が被控訴人会社の代表取締役に就任した直前の昭和五六年四月一日からである(甲第三一号証の六)ところ、被控訴人三郎自身、右は将来を考えて控訴人孝祐及び控訴人和子の知人の名義を使用するように控訴人孝祐に指示した旨原審において供述し、控訴人孝祐は右株式は自分がこれを買い戻したと原審において供述しているけれども、右株式について控訴人孝祐が利益配当を受領したことを認めるに足りる証拠はなく、また右株式数が株主名簿上控訴人孝祐の持株数に上乗せされた時期には既に被控訴人三郎との経営方針についての対立が明瞭になっていたものと考えられるから、右株式について被控訴人三郎から控訴人孝祐に贈与或いは売却がなされたと認めることはできない。

(2)  控訴人和子名義の株式について検討すると、株主名簿上、昭和五五年四月一日付から昭和六一年八月三一日付までは一万株であり、同年一一月一八日付で二万八〇〇〇株に増加している。そのうち当初の一万株については、控訴人らは控訴人和子が親戚筋の者から有償で取得したと主張している点はこれを認めるに足りないが、控訴人和子はこれに応じて利益配当を受領していたものと認められ(前掲乙第一一号証の一ないし三、成立に争いのない乙第三二号証、弁論の全趣旨)、同人が控訴人孝祐の妻であることや前記控訴人孝祐についての事情をも考慮すると、右は被控訴人三郎から控訴人和子に対し贈与されたものと認められる。しかし、昭和六一年一一月一八日付で増加した一万八〇〇〇株は前記松下敏夫及び宮井清忠名義のものであったものであるが、その間の事情は前記森田義久、滝本修弘及び秋田登亀雄名義の株式に関する控訴人孝祐の関係と同じであり、右株式について被控訴人三郎から控訴人和子に贈与或いは売却がなされたと認めることはできない(乙第四〇、四一号証は右判断を左右しない。)。

(七) 抗弁2(三)(取得時効)について

控訴人孝祐の主張によれば、右取得時効の対象株式は、既に控訴人孝祐に贈与されたものと認めた六万五〇〇〇株に含まれるものであるから、これについての判断は不要である。」

以上によれば、被控訴人会社の控訴人孝祐に対する本件整理申立の忠実義務、善管注意義務違反又は不法行為に基づく損害賠償請求は理由がなく、原判決別紙明細表についての損害賠償又は不当利得返還請求は同表⑫についてのみ理由があり、被控訴人らの控訴人らに対する株主権確認請求は原判決別紙株式目録記載の株式の内控訴人孝祐名義の二万七〇〇〇株と控訴人和子名義の一万八〇〇〇株を被控訴人三郎が有するという限度で理由があるから、原判決を主文のとおり変更し、民訴法九六条、八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官富澤達 裁判官古川正孝 裁判官塩川茂)

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